てちりさぴっぴ





今までの自分のてちりさの小説とは少し違った世界線です。
2年くらい前、書き始めた時に書きたいなって思っていてのですが。どうしても上手く書けなくて、その時はボツにしました。



久しぶりの更新になってすみません!(2週間)
書くこと自体も最近はやってなかったのでお手柔らかに…











夏も始まり、窓にかけられている風鈴が心地よい清涼感のある音を鳴らし始めるこの頃。
だんだん日が落ちるのも早くなって、あっという間に外は真っ暗だ。

「友梨奈、ドライヤーするよ」
「熱いから嫌だ」
 
2人で風呂に入った時。必ずと言ってもいいくらいの頻度で私がドライヤーをしてあげるんだけど、友梨奈に逃げられてしまう。

「髪乾かないよ?ブリーチしたんだから乾きにくいってメイクさんに言われたーって、友梨奈言ってたじゃん」
「やだ」

このご時世で美容院に行けてなく、友梨奈の髪は少しだけ色落ちしていて伸びている。
短いならまだしも長いと乾きにくいからドライヤーをしなきゃ行けないのに…

「髪が傷んじゃうよ?」
「も…ぅ、わかったから」

大人しく用意した椅子に座った友梨奈は私がドライヤーをし始めると、徐に携帯を取り出して画面を開いた。

「あっ…その写真」
「ふふ、懐かしいでしょ」

友梨奈にとってはどうか分からないけど、私にとっては少し苦い思い出のある写真。
私の中では結構大きな事件、それは数ヶ月前の事だった。






きっかけは些細なこと、

「友梨奈、今度の休みさ…」

私が話しかけても友梨奈は話を聞かずに、ずっとすまほをいじりつづけていた。それだけだった。
最初は仕事の連絡かな?なんて思っていた私だけど、後ろからチラッと見た時に見えていた名前に私は自分の頭に血の気が上るのを感じた。

「ねぇ、友梨奈。愛佳と連絡なんかしてる場合じゃないよ。話聞いて?」
「…なんか?」

自分がした過ちに気づくのは早かった。
友梨奈は自分の周りの人が傷つけられたりすると本当に怒る。それを少しの間でも忘れていた自分は本当にバカなんだろう。

「いま私と話してたんだから…さ」

だけど、1度外してしまった怒りの蓋を閉じるのは簡単ではなく。ズバズバと言葉が口から出てきてしまう。
こんな性格の自分、本当に嫌だ
友梨奈のことを傷つけて何がしたいんだろう。

「いくら理佐でも大事な人を馬鹿にするのは許さないよ」
「…それは愛佳が元カノだから?」
「ちが「違わないでしょ。友梨奈、本当は愛佳とヨリ戻したいんじゃないの?」」

最近の友梨奈は愛佳と遊んだり、愛佳の話を良くする。もう、我慢の限界だった。
自分のことを優先して欲しい、そう思うのはダメなことなの?愛佳の方が友梨奈にとっては大事だったのかな。

「愛佳は愛佳、理佐は理佐じゃん。なんでいま愛佳の話し出してくるの?」
「だって…事実じゃん。友梨奈は愛佳の方が好きそうだし」

ずっと抑えていたはずの、友梨奈には絶対言わないはずだった気持ち。私にとっても彼女は大好きな親友だから余計に嫉妬してしまっていた自分がいたんだ。
それを伝えたら、友梨奈は良い顔はしないだろうというのは分かっていた。それでも抑えきれなかったんだ。

「理佐は私を信用してくれないの?」
「別に…そういう事じゃ」
「そういうことでしょ?別に私は愛佳と何も無いのに、すぐそうやって……」
「……」
「もういいよ、出ていく」
「…勝手にしなよ」
「もう、理佐なんか知らない」

服を詰めるだけ詰めて、友梨奈は出ていってしまった。




「はぁ…」

大きな溜息は誰の耳に入るわけでもなく、1人じゃ広すぎる空間に消えた。
友梨奈から出ていってすぐ自暴自棄になった私は昼間からアルコール度の強いお酒を少しだけ飲んだ。
すぐに眠くなった私は洗濯をし終えたばかりのふかふかのベッドに身を投げ、躊躇いもなく目を閉じたというわけだ。

ヴーッ ヴーッ
部屋に響く無機質な音
相手はなんとなく、誰かわかっている気がする

「…はい」
「もしもし、りっちゃん?」

いま1番聞きたくない親友の声。友梨奈は誰の家に行くのか考えたけど、やっぱり愛佳の家だった。

「友梨奈…愛佳の家にいるの」
「うん、急に来るからびっくりしたよ。なに?喧嘩?」
「…そんなところ」

あなたの名前が出てイラッとして友梨奈に当たっちゃいましたよ、なんて当然言えるわけもなく言葉を濁してしまった。
由依と織田の家とかに行ってくれれば、まだ良かったのにな。

「とりあえずさ、私と理佐で会おうよ。場所は…んー、いつものカフェ!1時間後ね」

相変わらず気分屋な愛佳、あまり怒らないし面白い。
自分とは真逆の正確な気がする。
友梨奈はなんで別れたんだろう。





急に私の家に来た元メンバー兼元恋人の平手
連絡は取っていたし二つ返事で家の中に入れてしまった。
数ヶ月ぶりに会った平手は心なしか身長も伸びて少し大人っぽくなった気がする。服のセンスも前とは違って少しフワッとしたの着てるし、おそらく理佐のセンスだ。

「…理佐、なんて?」

頭をクシャッと撫でるとやめてよ…なんて言うけど、昔と変わらずクソガキな様子に自分の頬も緩む。
2人でいた最後の日は泣かせてしまったから、笑顔を見るのは久しぶりかもしれない。普段から可愛いけど、やっぱり笑っていた方が平手は可愛い。
 

「ちょっと理佐に会ってくるよ、てちは?一緒に来る?」
「……やだ、会いたくない」

今あっても…理佐を傷つけることしか私にはできないから。愛佳も多分それを分かってくれている。

「だよね。行ってくるから家からは出ないでよ?」
「また子供扱いして…私、来年20だよ?」
「知ってる知ってる。」

背中越しに手をひらひらと振ると、愛佳は出かけてしまった。

この部屋に来たのは…いつぶりだろうか。
最後に見た愛佳は泣かずに私に微笑んでいてくれたっけ。
愛佳と別れた理由、今より少し幼かった私はその理由が分からなくて、くる日もくる日も泣き続けた。
そんな時に側にいてくれたのが当時のシングルでポジションが近くになりよく話すようになった理佐。
私をただずっと抱きしめて、背中をぽんぽんと撫でてくれて。ぽっかり空いた心の穴を理佐が埋めてくれた。
愛佳には、ある日突然分かれようと言われた。流石に動揺したけど…いつかその日が来ることは分かっていたんだと思う。
別れた後も仲の良い友人として偶に会っていたけど、理佐をその度に不安にさせていたのだろうか。
……理佐に会いたい
心配させてしまったのは自分だから、ちゃんと…謝って。それでもまだ一緒に居てくれるなら、私は理佐と…ずっと一緒に居たい。





「りっちゃん」

店の前で空を見上げていると、肩を叩かれた。
数週間前に会ったときより髪は伸びていて、会うたびに色々変わっている彼女は欅にいた頃の自由なままだな、なんて思う。
今まで会った時は意識しなかったけど、こうして友梨奈の元カノなんだなと意識すると少し緊張する。

「なに飲む?」
「んー、アイスティー。」
「じゃあ私もそれで」

自分達より若そうなバイトのお姉さんに飲み物を頼むと、先ほどとは違い真剣な眼差しで私を見つめた。
私は愛佳のこの目が苦手だ。
あの日、愛佳に平手と付き合うんだと話した日。
偶然にも同じ席で同じ目で見つめられた。

「てちと、友梨奈と喧嘩した?」

そう聞くと、理佐の眉はピクッと動いて誤魔化すかのように運ばれてきたアイスティーをひと口飲んだ。
知ってるよ。理佐は私がてちのことを友梨奈って呼ぶのを少し嫌がることを。
親友としては仲はいいけど、てちの元カノとしては好かれていないということを。

「喧嘩したくて…したわけじゃ、ない」

話すぎると言葉と一緒に涙まで出てきそうで、愛佳も傷つけてしまいそうで。
こんな攻撃的な自分、知らない

「なに言ったの?てちに」
「愛佳と、ヨリ…戻したいんじゃないかって」
「…ねぇ理佐。私あの時、てちのこと大事にしてあげてほしいって言ったの覚えてる?」

愛佳が私をりっちゃんではなく理佐と呼ぶ時は、大抵少し怒っている時。

「覚えてる」
「…破らないでよ」
「愛佳じゃん」
「えっ…?」
「一番破ったのは愛佳じゃないの?それだけ友梨奈のことを大切に思ってるなら、なんで…なんで別れたの?」

普段、私が愛佳に対してここまで意見を強くいうことはないから明らかに驚いている。
けど事実だと思う。
愛佳が別れていなければ自分が付き合うことはなかっただろうけど、同時に友梨奈だって傷つく必要はなかったはずだ。

「…てちと、友梨奈とずっと一緒に居たら。次に進めないような気がして。」
「次…?」
「卒業と一緒に心機一転したかった。友梨奈にとって、きっと私が邪魔になる時が来るから」
「そんな勝手な…」
「勝手なこともわかってる。けど理佐なら…確証はなかったけど友梨奈を幸せにしてくれる気がして」

ストローをくるくると回す愛佳の目は潤んでいて、話してくれた言葉の裏にはきっと真実があることを察した。
きっと譲れない何かがあるんだろう

「…りっちゃん。私とてちには何もないから、ただの友達なの。分かって」

親友の強い思いに、私は頷くことしかできない。
きっと聞いてしまったら、今の私の決意は揺らいでしまうから。
絶対自分が…、愛佳より幸せにしたい。

「てちのこと、迎えに来るでしょ?」
「…うん」





「…友梨奈、」

目が覚めると、大好きな理佐が私を見つめていた。
けど…これは夢だろう。だって理佐とは喧嘩をして私は家を出てきてしまったんだから。
理佐がここに居るはずない

「…ごめん、ごめんねっ」

抱きしめられる理佐の腕は暖かくて、いつも私を受け止めてくれる大好きな少し大きい手。
夕方になっていることを知るより先に、これが夢ではないことに気づく。
理佐、迎えに来てくれたんだ

「私も…ごめんね、ムキになっちゃって」
「友梨奈のこと全然分かってなかった、もう一度チャンスがほしい…他の誰でもない、私が友梨奈のこと幸せにするから」
「…違うよ、理佐」

寝起きでゴシゴシと目を擦る手を掴むと、友梨奈は指を絡めて握り返してくれた。

「いつも私の心配ばっかりしてくれる、この手の持ち主と。私は一緒に幸せになりたい」
「…ありがとうっ」
「ちょっと、二人とも。人の家でイチャイチャしないでよ」

ドアにもたれかかって私たちを見る愛佳は呆れたような、少し嬉しそうに笑っている。
これでいいんだよね、









「おーい、理佐?」
「あ…なに?」
「いや、ぼーっとしてたからさ。なにか考え事?」
「…あぁ。その写真のことについて思い出していたの」

私と愛佳の間でぎこちなくピースをする友梨奈が映ったこの写真。友梨奈と仲直りした後、愛佳が急に撮ろうなんて言ったんだっけ。
なんで急に撮ろうなんて言ったんだろう、そう疑問に思ったけど友梨奈はこの写真が好きみたい。


ドライヤーを終えて2人で仲良く鏡の前でスキンケア。友梨奈が前勧めてくれたものを使ってみたら自分の肌にも合っていたので共用している。
鏡越しに目があった友梨奈は風呂上がりのせいか少し眠そうで、自分の肌をペチペチと叩いている。

「ねぇ、なんであの写真を待ち受けにしてたの?」
「…もしかして嫌だった?

嫌か嫌ではないかと言われたら、やっぱり少し複雑な気持ちになる。
自分の大事な恋人の前の彼女、しかも親友。いくら大事だとはいえ自分の好きな人は譲れない。
だって、私の方が絶対好きだから

「ねぇ、友梨奈。私と愛佳どっちが…」

この質問が友梨奈を困らせてしまうことはわかっているけど、どうしても聞きたかった。
あれから2年という少し長い月日が経ったから、もし友梨奈の心が変わってしまっていたら。そう考えただけで不安で胸が押し潰されそうだ。

「…ふふ、理佐っておばかさんなところあるよね」

一瞬きょとんとしていた友梨奈だけど、すぐに笑い始めた。

「えっ…何急に」
「好きじゃない人に指輪を貰って泣く人いる?」
 

友梨奈が差し出した左手の薬指にはキラリと光る指輪、私が去年の誕生日にあげたものだ。
仕事以外の時はいつもつけていてくれて、布で磨いてるのも見たことがある。

「あの時、嬉しすぎてさ。ほら…私ってこんな性格だから、理佐にも別れようって言われるのかと思ってて。…もしかしたら、最悪の誕生日になるんじゃないかって怯えてたの」

去年の誕生日にあげた時のことを思い出した。
私があげた指輪を見つめて、友梨奈は瞼に涙をにじませながら、ありがとうと言ってくれたんだっけ。

「愛佳のことは確かに好きだったよ?けど、今は友達としての好きだから」
「友梨奈…」
「自信もってよ理佐、私は他の誰でもなく理佐のことが大好きだから

椅子から立ち上がり私の頬を手で挟むと耳元でボソッと呟き、友梨奈ニヤッと笑ってリビングへ歩いて行った。
 
「えっ…いまなんて。ちょっと、」
「いーわない!ピノ貰っちゃうよ理佐!」
「2人で食べるって言ったじゃん!こら!」


友梨奈の先ほどの発言の真意を聞くべく、私は歩き出した。

窓辺では変わらず風鈴の音が綺麗になっている。











この指輪は絶対離したくないから




Fin



志田さんが平手さんを思い続けていたことは確かでしょうね。

読んでいただきありがとうございました!
感想などいただけると嬉しいです。
ではまた次回!

カイ






カイ

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